【再録】戸島大佐の「在留邦人の危機管理」FILE No. 6:空き巣と鉢合わせたらすぐに逃げる

――  玄関や窓を戸締まりしても屋根から入られる ――

 空き巣はnewsclipで以前にも取り上げた犯罪の一つ。タイの空き巣は、単なる窃盗から強盗、さらには殺人事件に発展することが少なくない。

 窃盗事件である空き巣は日本の場合、空き巣だけを繰り返す者による犯罪で、通りがかりに思いついて飛び込むことはない。同じ地域でも入りやすい家とそうでない家があり、時間をかけて品定めして、特定の住居を狙う。軒先の洗濯物などで家族構成を想像し、入るか入らないかを決める。

 敷地が塀でしっかり囲まれていたり、植木が多かったりする住居は、空き巣に入られやすい。一度侵入すれば侵入者の姿が外から見えなくなってしまうからだ。開けっぴろげの造りの方が意外と防犯になっている。侵入者は敷地に入ったら、必ず裏に回る。電気メーターを確認し、グルグルと速く回っていれば住人が在宅中と判断する。

 慣れている者であれば侵入してまず、屋内のドアを全て開ける。物色中に住人が帰ってきたとしても鉢合わせにならないよう、まず先に逃走口を確保するのだ。

 タンスの引き出しは、上から下に開け閉めをくり返すのが普通だが、これは時間の無駄。侵入者も慣れていなければ、上から下へと開けたり閉めたりするが、上手くなってくると下から上へと引き出して、時間を節約する。さらに上手くなると、全てを元どおりにして逃走する。住人が何を盗まれたかすぐには分からないよう時間稼ぎをし、警察への通報を遅らせるためだ。その道一筋、前科8犯のプロの話によると、慣れた者なら住居に入るなり、どこに金目のものがしまってあるか分かる。

 一方タイでは、決して本職ではない者の犯行が見受けられる。一つの例として、「何かの建物の建設が始まり、建設現場で働く職人たちがその敷地内に寝泊まりするようになると、周辺地区で空き巣が増えてくる。建物が完成して職人たちが去っていくと、空き巣もいつの間にか少なくなっている」という統計がある。このような空き巣は、警察も捜査がしやすい。

 タイではよく、玄関や窓に鉄格子を設けた住居を見かける。防犯への心がけが感じられるが、侵入者は内部に入るとき、防犯設備が厳重な玄関や窓を通らない。侵入口はすべて屋根だ。タイの住居は屋根や天井の造りが簡素な場合が多く、簡単に壊される。

 屋根をつたって2階3階へと侵入することは難しいことではない。街路樹や電柱を上って電線を伝うだけだ。タイの電線の配線はぐちゃぐちゃに絡み合って丈夫そのもの、人間の体重を支えるぐらい何ともない。

 タイの空き巣は、室内が相当荒らされる。侵入者は、目ぼしいものだけでなくあるもの全て、靴まで持っていってしまう。引き出しはためらうことなくバールでこじ開ける。被害に遭う方は後始末が大変だ。

 そして、侵入者は必ず凶器を所持している。住人と鉢合わせになると、逃げずに襲ってしまうことがある。窃盗だけでなく、人を襲えば強盗になる。殺してしまったら殺人だ。

 そのため、被害者の方が逃げなければならない。空き巣犯人と出くわしたら、自宅でもあってもまずは抵抗せず静かにするか、またはその場から逃げて警察の191番に通報して安全な場所に姿を隠す。

戸島国雄
日本の元警視庁刑事部鑑識捜査官、元似顔絵捜査官、タイではタイ警察から警察大佐の階級を与えられる。これまでに4冊、日タイの事件・捜査に関する本を執筆、テレビ出演も多数。現在、日本に帰国中。

再録:過去に掲載して人気が高かったコラムを再アップしています。

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