【再録】戸島大佐の「在留邦人の危機管理」FILE No. 7:下半身に性格なし、性欲あるのみ

――  痴漢とスリは、目付きや行動パターンが酷似 ――

 痴漢は、日本では朝方の出勤ラッシュで多く発生する。出勤はたいてい、狙う相手が1人で電車に乗り込むからだ。夕方以降は、職場の同僚などと複数で行動することが多く、痴漢はやりづらくなる。犯人は満員電車を待ち、最後にすっと乗る。これはスリも同様。潜むのは逃げやすい場所、圧倒的にドア付近だ。

 日本では最近、痴漢の冤罪(えんざい)が取り沙汰されている。満員電車の中で、自分の手が相手の体に触れただけ、という主張だ。捕まっても、「物的証拠を出せ」と食って掛かる。犯行の事実はともかく、線路に飛び降りてでも走って逃げろ、という風潮にさえなってきた。一方で、女性が痴漢被害をでっちあげる「親父狩り」という問題は、一時期よりは聞かなくなっている。

 警察が痴漢を現行犯で取り押さえることはまれで、ほとんどは通報によって動く。すなわち、証拠うんぬんと警察に食って掛かるのはお門違い、痴漢は親告罪であってその証拠は「被害者の訴え」だからだ。被害者の衣服に残った加害者の手の脂、加害者の手に残った被害者の衣服の繊維など要請があれば調べるが、もともと出にくいものであり、出なかったからといって無罪が実証されるわけではない。また、触った部位がどこであっても罪は変わらない。「手のひらではなく手の甲が触れた」という主張も通らない。

 タイにも痴漢はある。高架鉄道(BTS)、地下鉄(MRT)、路線バスなどで被害が出ているが、日本のように下着に手を突っ込むといった悪質なものは少ないと思われる。

 痴漢は「好み」の相手を狙う。車内では相手の横に立つ。並んで立つのではなく、横に立って相手の方に向く。例えば右側に立って右手を伸ばせば相手の腰の前側、左手を伸ばせば相手の腰の後ろ側を触ることになる。最初は触れる程度で「当たりを付け」、大丈夫と判断したら「まさぐる」。車内で女性と隣り合わせになった場合、誰からでも手の位置が見えるよう吊り革や手すりをつかむのが良いが、満員の車内ではそれもできないことがある。その場合は女性を背にするなど自らの体の向きを変えるといった工夫が必要だ。

 スリと痴漢は、目付きや行動パターンが酷似している。捜査三課にスリ専門班があり、同班の刑事は「モサ係」と呼ばれる。モサは隠語でスリのこと。そのモサ係は、「スリと見込んで追っていた相手が痴漢だった」ということがよくあるという。

 痴漢にかかわらず、強姦、幼児へのいたずら、盗撮といった性犯罪は、人格とは無縁といえる。人間全て、下半身に人格はない。あるのは性欲のみだ。日本では最近、裁判官、警察官、教師など社会的に責任ある職業に携わる者の犯罪を、メディアがこぞって取り上げ、攻撃的でさえある。仕事のストレスが性犯罪を引き起こすといった見方をしがちだが、一般人による犯罪の方がはるかに多い。

 性犯罪者は逮捕されて刑に服しても、出所すればまた繰り返すのが常だ。そして犯行手口には必ず、犯人の癖が出る。犯人が10人いれば手口は10種あるといっていい。日本でも外国でも同様だ。

 どの国の警察も、そのような手口を常に記録、コンピュータにかけて分析し、色分けしておく。どこかで事件が発生した場合、例えば黄色に色付けした手口が増えれば、その手口に絞って過去の事件を洗い出し、容疑者を特定していく。したがって、ある事件が発生して容疑者が挙がらず、その後も同様の手口の事件が発生していないとなった場合、容疑者は一時滞在の外国人だったという可能性が出てくる。

 ほか、民家侵入による強姦は、干してある洗濯物の種類によって、押し入るか否かが判断される。女性の1人暮らしで洗濯物も本人の衣類しか干していない、という部屋が狙われやすい。窓のカーテンを閉めずに室内をウロウロする姿が見えてしまう部屋も同様。少なくとも洗濯物は、実家の父親のズボンでも何でもぶら下げるなど、防犯意識が必要だ。

戸島国雄
日本の元警視庁刑事部鑑識捜査官、元似顔絵捜査官、タイではタイ警察から警察大佐の階級を与えられる。これまでに4冊、日タイの事件・捜査に関する本を執筆、テレビ出演も多数。現在、日本に帰国中。

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