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【再録・タイ人あるある恐怖体験】⑫ 地縛する女性
- 2025/7/3
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♀ 20代後半 ピッサヌローク出身バンコク在住
ピッサヌロークのとあるビルで体験した話。そのビルは5階建てで、1階の左手に私が働いていたカラオケ店があった。右手にレスキュー隊の事務所、2階はアパートになっている。3階から5階は、長い間放置されて窓やドア壊れていたり外れていたりで、廃墟と化していた。
カラオケ店の仕事は深夜に終わる。仕事仲間の何人かはビル2階のアパートに住んでいたので、よく泊めてもらっていた。その夜も仕事仲間の部屋にお邪魔した。私が寝ようとすると、アパートの別の部屋にいる仕事の先輩から電話がかかってきた。何ごとかと思い、電話に出てみると
「A(♀)の様子がおかしいの!早く来て!」
と、慌てた声で言われた。Aは仕事仲間の1人で、5日ほど前から先輩の部屋に泊まっている。急いで先輩の部屋に向かうと、そこには震えながら横たわっているAの姿があった。Aは
「なんで来るの? 私、何かした?」
と、目を閉じたまま涙を流して呟いていた。ちなみにこの日はお客さんがいなかったから、Aを含めて誰もお酒を飲んでいない。
心配になって声をかけてみると、Aは自分の寝ている爪先の方向を指差して
「女の人が立っている」
と言った。もちろんそこには誰もいない。私がなぜそこに女の人が立っているのか聞くと、Aは
「私が騒がしくてマナーがないから嫌だって言ってるの」
と、意味不明なことを口にする。その後もAは
「怖い」
「ごめんなさい」
と繰り返していた。
私は自分の手首に巻かれているサーイシン(仏教のお守りの役割を担う手首に巻く糸)を外し、Aに持たせようとした。そうすとAは
「女の人が熱がってる。かわいそう」
と言ってサーイシンを投げ捨てた。もうどうすることもできないので、私はお経を唱えることにした。お経を唱え終えると、Aは青ざめた顔で
「もう行った」
と口にして、ようやく起き上がった。
すでに朝になっていたので、私はAやほかの先輩たちにお寺に行かないかと提案した。Aを含めみんな同意したので、バイクに乗ってお寺に向かった。Aは私の後ろに乗っていた。お寺に着くとAは、本堂に入るのを嫌がった。
私はその様子に違和感を覚えた。Aは普段から明るくよく喋る性格なのに、今はうつむいたままで、何も話そうとしない。お寺までの道中、私は彼女の様子をサイドミラーでうかがっていたが、風が強く顔に当たるバイクに乗っていたのにもかがわらず、彼女は一度も瞬きをしていなかった。
私たちは何とかAを本堂の中に入れて座らせることができ、隅に置いてある聖水を渡したが、Aは拒否した。聖水は邪悪なものを清めることができるので、無理矢理にでも飲ませようとしたら、Aは
「飲まない! ここ(例のビルの部屋)にいたければ、私に聖水なんて飲ませるな!」
と怒り出した。みんなびっくりしてその場が凍り付いた。私は冷静を装おって
「はいはい、分かったよ」
と言いながら、聖水を戻しつつ自分の親指の先にそっと付けておいた。Aに近づいて顔にかかった髪を払う振りをして、指先の聖水を付けた。するとAはバタンと倒れて気絶した。
Aはしばらくして意識を取り戻した。びっくりした顔をし、自分がなぜお寺にいるのか分からないと言う。彼女の説明によると、女の人が部屋を出て行った後、彼女は眠ってしまい目を覚ましたらここにいた。
私は元気を取り戻したAに詳しく話を聞いた。彼女は先輩の部屋に泊まりにいった初日から、その女性を見ていたらしい。キャミソールに半ズボンという格好のすごくきれいな人が、隣の部屋の前に立っていた。
Aは当初、隣人だと思って気にすることはなかった。しかし、次の日になってもその次の日になっても、その女性はいつも同じ服を着て、同じ場所に立っていたという。Aは怖くなったが誰にも言えず、昨夜の騒ぎを起こすに至ったらしい。
女性の正体が気になった私と先輩は、ビル右手のレスキュー隊に話を聞きに行った。レスキュー隊のお兄さんに、この辺りで亡くなったきれいな女性を知らないかと聞くと、レスキュー隊のお兄さんは
「いるよ。会ったのか?」
と聞き返してきた。
「友達が見たよ」
というと、
「ああ、キャミソールに半ズボンを着たハーフ系の美人だろ」
と、まだ何も話していないのに、女性の服装や外見を言い当てた。
彼の話によると、その女性はこのビルの元大家さんで、ビルの屋上で首を吊ってしまった。女性は死ぬ直前まで、Aが寝泊まりしていた部屋に住んでたらしい。お兄さんから
「供え物をもって屋上に謝りにいった方がいい」
と言われた。
Aを含め私たちは、あの夜あの部屋にいたみんなに声をかけて、屋上に行った。そこには彼女のための供養塔があった。その横の大きな貯水タンクで、彼女は死んだらしい。縄がそのまま残っっていて、ただならぬ空気が漂っていた。
その後、その女性に取り憑かれたAと先輩はすぐに仕事を辞めた。その後も、お店では何かしらの問題が起きたり、働いている人同士が揉めたりで、お店を辞めていく人が1人2人と増えていって、私も辞めた。最後はお店自体が潰れてしまった。
人がどんどん辞めていってお店が潰れた理由が、彼女の呪いによるものなのかどうかは分からないが
「飲まない! ここにいたければ、私に聖水なんて飲ませるな!」
という言葉は今でもはっきり覚えている。
再録:過去に掲載して人気が高かったコラムを再アップしています。