タイ憲法裁「不敬罪廃止改正は違憲」 リベラル派最大野党解党か

【タイ】タイ憲法裁判所は31日、議会下院第1党で野党のガウクライ党(ムーブフォワード党)が昨年5月の下院選で不敬罪の廃止改正を選挙公約に掲げたことについて、「国王を元首とする民主政体の転覆を図るもの」で、違憲だとする判断を下し、ガウクライ党に対し、不敬罪の廃止改正を目指すすべての活動を停止するよう命じた。

 ガウクライ党と敵対する王党派は今回の判決をもとに、選挙委員会を通じて、ガウクライ党の解党とピター前党首ら党幹部の参政権剥奪を憲法裁に申し立てる見通し。タイの憲法裁と最高裁、軍は王党派の強い影響下にあるとされ、ガウクライ党は解党され、ピター前党首らは参政権が10年間剥奪される可能性が強まった。

 判決について、ピター前党首らは「民主主義、国民の権利と自由に大きな影響を与える」、「王室に関係する政治抗争を国会を通じて解決する機会を奪うものだ」などと批判した。

 不敬罪はタイ国王夫妻と王位継承者への批判を禁じるもので、違反した場合、1件につき最長15年の禁錮刑が科される。タクシン政権(2001〜2006年)を追放した2006年の軍事クーデター以降、王党派と民主派の対立が強まり、不敬罪で訴追、投獄される人が急増した。国際人権連盟(FIDH)によると、2021年11月30日〜2023年10月30日に不敬罪で訴追され一審で有罪判決を受けた被告は79人で、最も長い刑期は28年だった。

■前身政党も解党

 ガウクライ党の前身はプラユット軍事政権(2014~2019年)下の2018年に設立された新未来党。同党は王室改革、不敬罪の改正、クーデターを繰り返すタイ軍の抜本改革、軍政が作成施行した民主主義を制限する内容の現行憲法の改正などを訴えて、2019年3月に8年ぶりに実施された下院(定数500)選で81議席を獲得し、第3党に躍り出た。2019年10月には、2連隊の指揮権と予算をタイ陸軍からワチラロンコン国王に移管する緊急勅令の国会採決で唯一反対票を投じた。2020年11月、党首のタナートン氏が下院選に立候補した際にメディア会社の株式を保有していたことが選挙法違反だとして、憲法裁が同氏の下院議員資格をはく奪。翌2020年2月、新未来党が下院選の際にタナートン氏から1億9120万バーツを借り入れたことが1個人からの多額の政治献金を禁じた政党法違反にあたるとして、憲法裁が同党を解党し、タナートン氏ら党幹部16人の参政権を10年間停止した。

 新未来党の支持勢力が新たに立ち上げたガウクライ党は昨年5月の下院選で、不敬罪の廃止改正などを掲げ、151議席(比例代表の得票率36.2%)を獲得して第1党になった。しかし、プラユット軍政が議員を選任した非民選で王党派の議会上院(定数250)と下院の旧与党陣営が不敬罪の廃止改正に強く反発し、ガウクライ党による政権樹立を阻止。ガウクライ党と同じ旧野党陣営で141議席(比例代表の得票率27.7%)を獲得したタクシン元首相派のプアタイ党が旧敵である王党派と手を組み、政権を発足させた。

 

 

 

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