【タイ】14日投票の議会下院(定数500)総選挙で王党派与党陣営で最多の70議席を獲得したプームジャイタイ党は17日、声明を出し、152議席を獲得して第1党となった民主派野党陣営のガウクライ党(ムーブフォワード党)のピター党首を首相指名選挙で支持しないと表明した。ガウクライを中心とする連立政権にも加わらない。
声明では、革新派のガウクライが国王批判を禁じた不敬罪の改正もしくは廃止を打ち出していることに不快感を示し、「野党となっても最後まで王室を守る」と主張した。主に地方の財閥、政治閥の集合体であるプームジャイタイは王党派と対立するタクシン元首相派に属していた政治家が多い。主要政策は大麻の解禁で、イデオロギー色は薄いとみられていた。ここへ来て王党派色を打ち出した背景には、同党のアヌティン党首(副首相兼保健相)が議会上院の支持を得て首相の座を狙っているためという見方も出ている。アヌティン氏は地場ゼネコン(総合建設会社)大手シノタイ・エンジニアリング・アンド・コンストラクションの創業者一族出身で元社長の富豪。
ガウクライは141議席を獲得して第2党となったタクシン元首相派プアタイ党など民主派の計6党、310議席で連立政権を樹立する方針を示している。しかし、首相指名選挙にはプラユット軍事政権(2014~2019年)が議員を選任した非民選で王党派の議会上院(定数250)も投票するため、首相指名選挙で上院の影響を排除するには、下院で376議席以上必要とみられている。
一方の王党派与党陣営はプームジャイタイとパランプラチャーラット党(下院獲得議席数40)、ルワムタイサーンチャート党(同36)、民主党(同25)と上院の250議席を合わせれば421議席となり、下院選で示された民意を無視すれば、首相指名選挙で容易に民主派野党陣営を打ち負かすことができる。
ガウクライは不敬罪の改正・廃止に加え、徴兵制の廃止、軍の縮小、県知事公選制の導入などを掲げ、王党派、親軍派と真っ向から対立している。上院議員の一部からはすでに、「王室を尊重しない人物を首相には推さない」といった声が上がっている。
こうした中、ガウクライが多数派工作に失敗し、プアタイ、プームジャイタイ、パランプラチャーラットの3党を中心とする政権が生まれるという憶測も出てきた。3党で下院の過半数を抑えるため民意をくみ取ったというかたちが作れ、パランプラチャーラット党首のプラウィット副首相(元陸軍司令官)が上院と太いパイプを持つため、上院の支持も得られる。王党派はガウクライによる急進的な政策転換を阻止し、プアタイは事実上の国外亡命生活を送るタクシン元首相の帰国を王党派の協力を得て実現させるというシナリオだ。