【タイ】タイ憲法裁判所は7日、議会下院第1党で民主派野党のガウクライ党（前進党）が昨年5月の下院選で不敬罪の廃止改正を選挙公約に掲げたことが憲法違反にあたるとして、同党を解党し、ピター前党首ら同党幹部11人に10年間の政治活動禁止処分を下した。前進党所属の下院議員の多くは党が準備した新党に移籍するとみられる。

　憲法裁は今年1月、前進党による不敬罪の廃止改正の動きは「国王を元首とする民主政体の転覆を図るもの」で違憲だとする判断を下し、前進党に対し、不敬罪の廃止改正を目指すすべての活動を停止するよう命じた。これを受け、選挙委員会が前進党の解党を憲法裁に請求していた。

　今回の裁判で憲法裁は1月の判断を踏襲した上、前進党が不敬罪容疑者の保釈や受刑者の釈放を求めていることは王室敵視だなどと主張した。前進党支持を示した欧州を中心とする諸外国も暗に批判した。

　不敬罪はタイ国王夫妻と王位継承者への批判を禁じるもので、違反した場合、1件につき最長15年の禁錮刑が科される。2006年の軍事クーデター以降、王党派と民主派の対立が強まり、民主派の活動家らが不敬罪で訴追、投獄されるケースが急増した。今年に入っても、民主派活動家、前進党下院議員らに相次いで不敬罪で実刑が下されている。

　不敬罪への言及は長らくタブーだったが、前進党の前身でプラユット軍事政権（2014～2019年）下の2018年に設立された新未来党が王室改革、不敬罪の改正、クーデターを繰り返すタイ軍の抜本改革、軍政が作成施行した民主主義を制限する内容の現行憲法の改正などを訴えて、2019年3月に8年ぶりに実施された下院（定数500）選で81議席を獲得し、第3党に躍り出た。2020年に憲法裁が新未来党を選挙違反で解党すると、新未来党の支持勢力が新たに前進党を立ち上げた。前進党は昨年5月の下院選で、不敬罪の廃止改正などを掲げ、151議席（比例代表の得票率36.2％）を獲得して第1党になったが、プラユット軍政が議員を選任した非民選で王党派の議会上院（定数250）と下院の旧与党陣営が前進党による政権樹立を阻止し、同党を野党に追いやった。

　その後も前進党の人気は上昇し続け、タイ国立開発行政研究院（NIDA）が今年6月にタイ全国の18歳以上を対象に実施した世論調査（回答者2000人）では、前進党の政党支持率は49.2％と圧倒的な1位だった。

■政党解党に首相解任　民主派叩く憲法裁　

　憲法裁は軍、選挙委などと同様に、民主派と対立する王党派の強い影響下にあるとされ、過去20年近く、ほぼ一貫して民主派に不利な判決を下してきた。2006年に民選政権であるタクシン政権が軍事クーデターで倒れると、翌2007年、タクシン派のタイラックタイ党を選挙違反を理由に解党。2008年にはタイラックタイ党の後継政党であるパランプラチャーチョン党所属のサマック首相（当時）をテレビの料理番組に出たことが首相の副業禁止規定に当たるとして解任し、さらに、選挙違反を理由にパランプラチャーチョン党を解党した。2014年にはタクシン元首相の妹のインラク首相（当時）を縁故人事を理由に解任し、直後に軍事クーデターが発生した。2020年には新未来党を選挙法違反で解党した。

　タイラックタイ党、パランプラチャーラット党、そして今回の前進党はいずれも当時の下院第1党で、憲法裁が国民の声を無視して民主主義を歪めているとの批判が国内外から強まっている。