【再録】戸島大佐の「在留邦人の危機管理」FILE No. 9:日本人による薬物犯罪

――  必ず繰り返す薬物乱用 夜の街での薬物所持容疑 ――

 同連載でこれまでに何度か、多くの犯罪は「癖(へき)」であって処罰を受けても懲りずに「何度も繰り返す」、という話をしてきた。薬物乱用も同様に癖であり、まさに中毒に陥る。1回手を出して味を占めると、強い意志を持ってしても止められないという現実がある。日本でもタイでも、薬物関連の犯罪で名の挙がった人物の情報は抹消されることなく保管され続け、「再犯」に備えられる。

 そもそも、強い意志があれば最初から手を出さないだろう。しかしタイを訪れる同胞の中には、開放的な生活で日本にいる以上に脇が甘くなり、知らず知らずのうちに犯罪に巻き込まれる、といった者がしばしば見受けられる。

 タイの薬物事情の詳細はここでは割愛するとして、日本人が薬物を求めやすい場所はやはり歓楽街、夜の街だろう。駐在員が接待の名目で利用するカラオケ屋も、店によっては薬物犯罪の温床とみなされる。

 薬物は最初、タイ人同士でも「麻薬」としてのやり取りをしない。例えばカラオケ嬢同士であっても、「疲労回復」程度の説明で売買を始める。カラオケ嬢はやがて自らの摂取にとどまらず、自分のお客にも「疲れが取れるから」と売りつけるようになる。乱交パーティーなどでは最初から、「最大限に楽しみましょう」と配られるときもある。薬物密売は「講」、いわゆるねずみ講であり、売れば売るだけ儲かる仕組みになっている。

 わざわざ高いカラオケ代を払わずとも、夜遊びを目的とした旅行者の滞在が多いホテルに行けば、簡単に入手できる。バンコク都内スクムビット通りのナナ界隈などは、ロビーに入っただけで大麻の臭いを感じるホテルがある。そんなロビーのソファに座っていれば、やがて誘いの声を掛けられる。複数ではなく1人で座っていることがポイントだが、ほかの用事で座っていても声は掛からない。売人は「こいつは薬を探している」という顔を見分けられるようだ。

 ほか、安宿街で知られるカオサン通りの裏手辺りの広場でも、座っていれば声を掛けられる。売人はやはり最初から麻薬を出してくることはない。ビールなどをおごって親密な関係を作ってから、さりげなく薬の話を切り出す。

 そのような路上でのやり取りはたいてい、警察に通報される。売人が自ら警察に垂れ込むのだ。薬を売った金のほか、警察からの情報提供としての報奨金も得ようという魂胆。買った方は、3秒以内に走って逃げるぐらいの素早さがないと、いとも簡単に捕まってしまう。

 薬物に手を出す者はたいてい、人間的に弱い。人付き合いが下手、相談相手がいないなど、気の小さい人に多いのではないだろうか。「興味本位」で始めたと強がった主張をしてみてもやはり、犯罪に手を染めないという意思を持てない弱さがある。一方の取り締まる側の我々は、中毒者の成れの果てを嫌というほど見せつけられ、その怖さを知っている。

 ただ、先のように「疲れが取れる」という言葉を真に受け、知らないうちに薬を飲まされていたというケースもある。「彼女の自分に対する気遣い」などと勘違いしていると、まんまと嵌(は)まる。彼女といっても交際相手ではない。ビジネスライクなカラオケ嬢だ。そして気が付いたときにはすでに、止められなくなっている。

 以前、摂取ではなく「所持」で捕まるケースがあった。日本人旅行者が歓楽街であるラチャダーピセーク界隈の店で女性を連れ出し、ホテルまでの移動でタクシーに乗ったら警察による検問を通り掛かり、所持品検査を受けることに。そうしたら胸のポケットから薬が出てきた、という騒ぎだった。

 当の日本人は最初から最後まで否定。同乗していた女性が知らないうちに姿を消したことを考えると、どうもその女性が自ら所持していた薬を処分するため、客である日本人の胸のポケットに滑り込ませたようだった。このようなとき、ポケットの中に薬が入っていたという事実は覆すことはできず、何かしらの刑は言い渡されることになる。ただ薬物に関しての前科がなく、自らの意志ではないという誠実な主張が認められれば、執行猶予という恩恵を受けられることが多い。

 タイでの生活を続けていく中で、夜の店を避け続けるのは難しいかも知れない。ただ最低限の危機管理として、店の良し悪しぐらいは見極めたい。まず、店先では陽気な呼び込み、中に入ってもやけにフレンドリーな対応、という店は注意したい。だからといって葬式のような陰気な店にも入りたくないだろうが、開放的ですぐに馴染んでしまうような店は身構えた方が良い。

 夜の店に行かずとも、街を歩いているだけでも麻薬中毒者と普通にすれ違う。日本人が多く集まる都心部のショッピング街でも、客待ちしているタクシードライバーの目つきがおかしいときがよくある。たいていは瞳孔が開いている。充血していたり目やにが多かったりしているときもある。少しでも不安を覚えたら速やかにその場から離れることが大切だ。

戸島国雄
日本の元警視庁刑事部鑑識捜査官、元似顔絵捜査官、タイではタイ警察から警察大佐の階級を与えられる。これまでに4冊、日タイの事件・捜査に関する本を執筆、テレビ出演も多数。現在、日本に帰国中。

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