タクシン元首相に国王恩赦、刑期8年が1年に 「王室に忠実」「国家に貢献」

【タイ】先月15年ぶりに帰国し、権力乱用などで禁錮8年を宣告されたタクシン・チナワット元首相(74)が、同31日付のワチラロンコン国王(71)による恩赦で、刑期が1年に短縮された。

 国王は恩赦の理由として、タクシン氏が王室に忠実で、首相として国家、国民に貢献したと評価し、高齢で持病があることも考慮したとしている。タクシン氏は近く追加の恩赦を受けるとみられる。

 タクシン氏は8月22日朝、プライベートジェット機でバンコク郊外のドンムアン空港に降り立った。家族、支持者らの出迎えを受け、ワチラロンコン国王夫妻の肖像画に拝跪(き)礼した後、収監された。同日深夜、バンコク都心の警察病院に移送された。タイ法務省によると、胸の痛み、高血圧などの症状があり、治療を受けているという。

 議会下院(定数500)の第2党でタクシン氏が事実上の党首とされるプアタイ党は長年対立関係にあった王党派と組んで政権を樹立することで合意し、8月22日の上下両院合同会議で、同党のセーター・タウィーシーン氏(60)が首相に選出された。タクシン氏の帰国と恩赦は王党派との連立政権樹立の取引の一部とみられる。

 〈タクシン・チナワット〉1949年、タイ北部チェンマイ生まれの客家系華人。中国名は丘達新。警察士官学校を卒業後、米国に国費留学し、刑法学博士号を取得。帰国後、警察に勤務するかたわら、官公庁へのコンピュータリース、不動産開発などを手がけ、1987年に警察中佐で退職。その後、携帯電話サービス、通信衛星などを展開するタイ通信最大手チン・グループを育て上げた。1998年に政党を設立。地方、貧困層へのばらまき政策を掲げ、2001年の下院総選挙で大勝し首相。2005年の総選挙も圧勝、首相に再選された。王党派との対立が深まり、2006年9月の軍事クーデターで失脚し、公職追放処分を受けた。2007年末の総選挙でタクシン派が勝利したため、2008年2月に帰国。8月に出国し、不在中の10月、首相在任中に妻が国有地を競売で購入したことで禁錮2年の実刑判決を受けた。その他2件で有罪が確定し、刑期は計10年となった。2008年の有罪判決以来、一度もタイに帰国せず、主にドバイに滞在していた。タイの王党派政権は身柄引き渡しを求めてきたが、諸外国はこれに応じず、タクシン氏は有罪確定後も、欧州、米国、日本、シンガポールなどを訪れている。妹のインラク前首相も2014年の軍事クーデターで失脚、国外に亡命し、タクシン氏のもとに身を寄せた。チナワット家のタイ国内の資産約760億バーツはクーデター後に凍結され、タイ最高裁が2010年2月、不正蓄財だとして、このうち464億バーツの国庫没収を命じた。米経済誌フォーブスがまとめた2023年版のタイ長者番付で、タクシン氏は資産総額約21億ドルで13位だった。

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