【タイ・カンボジア】ペートーンターン・チナワット首相は6月16日、国境での衝突に端を発するカンボジアとの関係悪化を巡り、首相府で関係閣僚や各軍司令官などと緊急会議を開いた。会議終了後の記者会見では、「タイの主権を守る」姿勢を改めて示した。
両国関係は5月28日の国境での衝突(銃撃戦)を発端に悪化。当初は「双方の事実誤認」として収まる気配をみせたが、カンボジア側が自国兵の死亡で態度を硬化させ、国境問題の国際司法裁判所(ICJ)への提訴をちらつかせた。国境開門時間についても、フン・セン・カンボジア元首相が「国境と閉じて困るのはタイ側。我が国民はタイ製品ボイコットなどで自らの首を絞めることのないよう」と余裕を見せていたが、最近は「タイが国境をこれまでどおりに開放しなければ、我々が完全封鎖してタイ製品を全て拒否する」といった逆上状態にある。
カンボジアでは時系列がタイのそれと入れ替わり、「タイが全てを仕掛けてきている」と受け取られているもよう。タイでもまた、政府が「交渉は順調」「状況は改善」と説明するものの伝わってくるのは「事態の悪化」だけで、タイ国民は不信感を募らせている。衝突が起きた国境一帯に関しても、タイでは「カンボジア軍の部隊が後退した」と伝えられたが、フン・セン元首相が「我が軍が我が領土を放棄するわけがない」とタイでの報道を即座に否定した。
ペートーンターン首相は16日、タイが「尊厳ある独立国家」であることを強調。「主張はSNSではなく外交ルートを」と非常識さをたしなめ、「意思疎通は相互合意の枠組みの中で実現する」と諭した。国境の開門時間短縮については、長距離兵器の配備など(双方の)軍事的な警戒が強化されており、「国民生活への影響を最小限とする」ことを理由に挙げた。
ペートーンターン首相は6月4日にも同様の発表を行ったが、結局はカンボジアがICJに問題解決を要請する書簡を送付するなど、事態の好転にはつながらなかった。今回の発表も、「国内での点数稼ぎ」と見る向きがある。
一方、カンボジア政府によるSNSを通じての情報発信は自国民には有効のもよう。両国の関係が悪化するに伴い(タイ国内の)カンボジア人出稼ぎ者の帰国も増えていると伝えられ、国境貿易以外でもタイ経済への影響が出始めている。タイでは建設、サトウキビ収穫、コメ収穫の労働力を、相当数のカンボジア人出稼ぎ者に頼っている。