カンボジアの「詐欺拠点」問題、タイ観光業にも打撃 業界は「ASEAN安全拠点」構想を提言

【タイ】カンボジアを拠点とするオンライン詐欺(特殊詐欺)組織の問題が深刻化し、タイ観光業の信頼も揺らいでいる。韓国や台湾など東アジア主要市場からの入国者が減少しており、観光業界に大きな影響を及ぼしているという。

 タイ旅行代理店協会(ATTA)は、現在問題となっているカンボジアの「詐欺拠点」への不安が、タイ、ラオス、ベトナムといった経由国にも波及していると指摘。「タイはCLMV諸国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)への経由地だが、タイ政府による明確な安全対策が見えず、旅行者が不安を抱いている」と述べている。

 「この状況はASEAN観光拠点としてのタイのブランドを損なうだけでなく、長期的には収益や投資にも影響しかねない。タイ政府が積極的にリーダーシップを示す必要がある」と、ATTAは警鐘を鳴らした。信頼回復に向けて主導的な役割を果たし、「ASEANの安全拠点」としての地位を確立するよう求めている。旅行者の安全を確保するための4項目の提案を示し、出発国との共同安全プロトコルや「セーフASEANトラベルデスク」の設置などを提案した。

 4項目の内容は、1)共同安全プロトコル:韓国、日本、中国、台湾など出発国と協議し、リスク情報の共有や早期警戒体制を整備、2)安全確認証の発行:経由旅行者に対し、標準的な安全チェックを経たことを示す証書を交付、3)データ監視システム:入国管理や航空会社のデータを活用し、経由客数や高リスク路線を把握し、CLMVと共有して予防策に活用、4)地域安全ネットワーク:セーフASEANトラベルデスクを設置し、緊急時の情報交換や旅行者への実務的助言を提供、というもの。一方、タイ政府は10月21日の閣議で、国内旅行の盛り上げを優先した対策を承認している。

 カンボジアの特殊詐欺拠点の問題に関しては最近、国内外のメディアが「特殊詐欺組織が関与した韓国人を狙った拉致・監禁事件が急増」と報じている。韓国政府などの発表によると、2025年1月から8月までにおよそ330人が被害に遭い、このうち80人はいまも安否不明のまま。7月には韓国人大学生が行方不明となり、身代金要求の後に遺体で発見される事件も発生した。

 タイは今年年初、ミャンマー国内の特殊詐欺や人身取引の犯罪拠点の存在が明らかとなり、多くの被害者を出した中国人がタイ旅行を避け、同国からの入国者数を大幅に減らした。タイの政府や旅行業者は「タイも被害者」という立場を強調しているが、ミャンマー入国へのルートがタイ国内だったり、タイ警察の関与なしに密出入国は不可能と報じられたりと、タイ自体が信用を失墜させた。カンボジアの詐欺拠点に関しても、タイ人が率先的に詐欺に関与したとして、タイ警察は問題が発覚した今年3月、「タイ帰国者の逮捕は100人に上る」と発表していた。

カンボジアで詐欺関与のタイ人、100人に逮捕状
ミャンマーの犯罪拠点で外国人261人解放 タイでは警察幹部が5人異動

バンコクの中国系旅行者 写真:newsclip

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