【タイ】ペートーンターン・チナワット首相は6月4日、東北部ウボン・ラーチャターニー県での軍事衝突に端を発したカンボジア国境問題で、「平和を愛するが、戦いも臆さない」と発言した。タイ国歌の一節を引用し、平和的解決を望みながらも万一の事態に備える姿勢を、国民にアピールした。
タイ軍とカンボジア軍の衝突は5月28日早朝に発生。10分ほどの銃撃戦に留まり、事態は「双方の事実誤認」として収拾するかに見えた。
しかし、カンボジアが同日中に「兵士1人が銃撃戦で死亡した」と発表。フン・セン元首相とフン・マネット・カンボジア首相がそれぞれ、国際司法裁判所(ICJ)への提訴をほのめかした。特にフン・マネット首相は戦闘服を着てテレビに登場、タイへの敵意を露わにした。
一方のペートーンターン首相は、4月下旬のカンボジア訪問で友好的な関係をアピールしたばかりであり、「国境問題は収束しつつある」「関係は良好」といった、自らの面目を保つ説明に終始。そのような態度に、父親のタクシン元首相とカンボジアとの密接な関係が「タイを不利な状況に追い込む」と信じる一部の国民からの非難が集中した。
タイ陸軍は、カンボジア国境に部隊を増派すると同時に、政府に国境閉鎖を要請。しかしプームタム・ウェーチャヤチャイ副首相兼国防相は、「冷静になるべき」「政府が平和的に解決する」として却下した。タイ国内では、「カンボジアは強気の姿勢を見せる一方、タイを怒らせて国境閉鎖などに出られると自分たちが困るので、水面下では国境を閉じないよう懇願している」といった噂が出回っており、プームタム副首相の発言はタイ国民をさらに怒らせた。ペートーンターン首相の4日の声明でも、「国境閉鎖が平和を導くか、それとも暴力を導くか、慎重に判断しなければならない」とだけ述べ、明言は避けられた。
反タクシン派などは、帰国時の仮病疑惑で6月13日に出廷予定のタクシン元首相が、「今回の国境問題を利用し、国民の注目を逸らそうとしている」と主張。国境問題とタクシン問題の双方を厳しく追及すべきと訴えている。
タイとカンボジアの両政府は、6月14日に合同国境委員会を開く予定。