【タイ】首相を含む全閣僚が失職したことにより、新首相の指名まで暫定的に首相職を務めるプームタム・ウェーチャヤチャイ首相代行が、政局の混乱の中で迷走している。自身に解散権がないと明言していたにもかかわらず、下院解散の勅令草案を国王に提出し、枢密院から差し戻された。首相指名投票は5日に予定されている。
タイ内閣は8月29日、ペートーンターン・チナワット首相(当時停職中)の憲法違反を理由に、憲法裁判所の判決によって全閣僚が解任された。プームタム首相代行には下院解散の権限はなく、上下両院の投票によって新たな首相が指名されることになる。
ペートーンターン氏の解任直後、父親でありプアタイ党の実質的な支配者であるタクシン元首相が、下院で最多議席を有するプラチャーチョン党に接触したとの報道が流れた。プームタム首相代行はこれを否定し、自らが交渉に動いていると説明。自身に解散権がないことも強調し、首相指名が唯一の選択肢であると述べていた。
しかし、前回の下院選で連立を組めず野党にとどまったプラチャーチョン党は、プアタイ党および(次期首相の座を狙うアヌティン・チャーンウィーラクーン前副首相率いる)プームジャイタイ党のいずれも「信用できない」と発言。プアタイ党との距離を保つ姿勢を崩さなかった。
このままでは自党から首相を選出できないと判断したのか、プームタム首相代行は9月2日、下院解散の勅令草案を国王に提出。その事実をメディアに公表し、「政治権力を国民に戻すため」と説明した。翌3日、枢密院が手続き上および法的な懸念を理由に草案を差し戻したことが明らかとなり、ワン・ムハマッド・ノー・マター下院議長兼国会議長が、5日に新首相の指名投票を実施すると発表した。
プームタム首相代行の一連の行動に対し、複数の下院議員や政治活動家がただちに、「不敬罪」「職権濫用」「憲法違反」などの容疑で警察に告訴、または国家汚職取締委員会(NACC)に調査を要請した。首相代行のこうした動きは自身の判断ではなく、タクシン元首相の画策と見る向きがほとんどだ。
前回の下院選でプアタイ党は過半数に届かず、首相の娘を通して打ち出した法案は成立せず、今回の解散工作も失敗に終わった。海外逃亡から帰国して以降、思惑どおりに政局を動かせていないというのが、もっぱらの見方だ。