【タイ】タイ最高行政裁判所は5月22日、海外逃亡中のインラック・チナワット元首相に対し、在任中のコメ買い取り制度で国に巨額の損失を与えたとし、100億3000万バーツ(430億円相当)の支払いを命じた。2021年の中央行政裁判所による、「インラック元首相に直接的な責任はない」という判決を覆した。
賠償金の支払いは当時の財務省が求めていたもので、請求額は350億バーツだった。今回の判決では、インラック元首相の責任は認められたものの、3分の1以下に減額された。買い取り実施によって発生した政府間(G to G)での損害が200億6000万バーツと見積もられ、その半額の賠償が命じられた。
インラック元首相の弁護団はこれまで、「コメ買い取り制度は善意によるもの」「失敗や腐敗は現場レベル」などと主張。元首相に責任はないと訴えていた。中央行政裁判所も、「制度が損失をもたらしたという根拠はなく、財務省の賠償請求は非合理的」との判断を下していた。最高行政裁判所は今回、「制度自体が損失をもたらし、コメ市場を歪めた」と判断した。
このコメ買い取り制度は、公金が注入された農作物は輸出できないというWTO(世界貿易機構)の規則に抵触するなどし、国内の倉庫に大量のコメを眠らせることとなった。長年にわたって維持してきたコメ輸出国トップの座からも転げ落ちた。
インラック元首相が2017年8月に国外に逃亡したのも、コメ買い取り制度の裁判がきっかけ。先に海外逃亡から戻ってきた兄のタクシン元首相は昨2024年、「来年4月のソンクラーン(タイ正月)までに妹は帰国するだろう」と発言していたが、未だ実現していない。