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【再録】戸島大佐の「在留邦人の危機管理」FILE No. 5:危機管理どころか、ただの不注意②
- 2024/12/23
- コラム, 戸島大佐の「在留邦人の危機管理」
―― 立場をわきまえない者に限って問題に巻き込まれる ――
いい歳をした日本人が、若いタイ人女性と手をつないで街中を歩く。本人はすっかりその気だが、傍から見る方はそのプライドのなさに「またか」とうんざりする。当の日本人にとってみれば恋愛かも知れないが、相手のタイ人にとっては商売。いいように巻き上げられて終わる。それでも自身が起こす事犯を自身で問題解決できれば良いが、そのような輩は誰かに泣きつくのがオチだ。
スクムビット通りのカラオケ屋に入って良い気分となった日本人が、店にいた娘のような年齢差の女性を連れ出した。2人で店を出て、日本人はこれからの展開を想像して浮かれ気分だが、女性の方は何やらずっと、携帯で話をしている。店を出る前から、道を歩きだしても話しっぱなし。どのぐらい歩いただろうか、タイ人の男がいきなりバイクで近づいてきて、日本人のバッグをひったくって逃走する。件の女性はびっくりしたように「きゃー!」と叫び、どさくさに紛れて消えてしまった。
バッグの中には現金やらパスポートやら全て入っていて、タイ語も話せないため為す術がない。こちらに「助けて欲しい」と泣きついてきた。所轄の警察署に出向いて盗難届を発行してもらう。日本国大使館領事部にも一緒に行かなくてはならない。領事部の担当官からは「パスポート紛失の届け出は今日10件目です」と言われた。パスポート取り扱いなど危機管理でも何でもない。紛失は単なる不注意だ。
ポケットマネーやパスポートぐらいの被害で済めばまだ良い方だ。若い女性に貢ぎ、土地を買って家を建て、全財産をつぎ込んだ挙句に放り出される日本人が少なくないのは、周知のとおりだ。自分で建てた家に火を付け、不和となった相手のタイ人女性ほか数人を焼死させて自殺した日本人もいた。
普段から注意が散漫だから、肝心なときにも適切に行動できない。2015年にバンコクで発生した爆弾テロがまさにそうだった。多くの日本人が現場に居合わせたが、爆発を受けて迅速に現場を離れるどころか、ノコノコと近づいていってスマホなどで写真を撮っていた。軍や警察などの治安関係者でもなく、一般人の身分で現場をふらつくことは自らの身分をわきまえていない証拠であり、死傷者に失礼な行為でしかない。二次災害として次は自分自身が被害に遭うと予想していないから、このような行動に出る。実際に現場からは、未発の爆弾が発見されたといわれる。
銃声が鳴り響けば、どこの国の人間でも反射的に身を伏せるが、日本人はキョロキョロする。自身が騒ぎに巻き込まれると想像できないのだろうが、エジプトでは1997年に日本人が巻き込まれた銃乱射事件が発生している。
問題に巻き込まれないよう考えて行動するのが危機管理だ。巻き込まれた後もウロウロキョロキョロするのは不注意でしかない。日本人は特に、2020年に東京五輪を控えている。「テロ対策は警察の役目」ではない。各自が日常生活の中で、不審物が置かれていないか、挙動不審者がいないか気を配り、見かけたら迅速に通報するという心がけを、危機管理と呼ぶ。
戸島国雄
日本の元警視庁刑事部鑑識捜査官、元似顔絵捜査官、タイではタイ警察から警察大佐の階級を与えられる。これまでに4冊、日タイの事件・捜査に関する本を執筆、テレビ出演も多数。現在、日本に帰国中。
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