【再録】戸島大佐の「在留邦人の危機管理」FILE No. 4:危機管理どころか、ただの不注意①

―― 在住者でも旅行者でも、すぐに他人を信じてしまう日本人 ――

 日本人は同胞をすぐに信用してしまうという話が続いたが、相手がタイ人であっても外国人であっても変わりない。在留邦人も旅行者も、他人をすぐに人を信用してしまう。在タイ日本国大使館領事部がいくら注意喚起を繰り返しても、被害に遭う日本人の数は減らない。

 人は誰であれ、すれ違いに道を尋ねることはあっても、「一緒に探して欲しい」などと頼むことはない。何も疑わずに行動を共にすれば、やがてどこかに連れて行かれて何かしらの被害に遭うのは目に見えている。

 見知らぬ人に「両替して欲しい」などと頼んでくるわけもない。率の良い両替屋はどこにでもある。困っていそうだからと話を受けるから、偽札などを掴まされることになる。

 わずか数日前にも、在タイ2年目という日本人から被害を受けたという話を聞いた。高架鉄道(BTS) アソーク駅の改札口を出たところでアラブ系の若い男女に、「今晩日本に向かうのだが、手持ちの金で行けるかどうか、確認してくれないか」と声を掛けられという。「日本の金を見せてほしい」と言われ、その場で自分が持ち合わせていた日本円を見せ、次は「両替出来るかどうか確認したい」と言葉巧みにいろいろ言われ、気が付いたときには手元の金が無くなっていたという。このようなときは、「言葉が分からない」と言って最初から相手にしないことだ。

 正確な数字が手元にないが、タイでスリに遭う被害者は日本人が最も多い。スリは行き当たりばったりで狙われない。どこかで目星を付けられて尾行されると知るべきだ。日本人が目星を付けられやすい場所は、人前でサイフを取り出すデパートのレジなど。これみよがしにサイフを出せば目立つに決まっている。全財産が入っているようなボリュームで、サイフ自体も派手で高価そうだ。そのような行動を見られ、スリやすい場所まで尾行される。

 日本人は金持ちだと自惚れてはならない。多額を持ち歩いているから狙われるのだ。タイ人も外国人も必要な額しか手元に出さない。スリというのは、加害者が悪いのは当然だが、被害者にも非がある。

 日本人がバンコクでスリに遭うのは、高架鉄道(BTS)が最も多い。乗り換え客で混み合うサイアム駅や、地下鉄(MRT)と交差するアソーク駅などだ。ほか、プロムポン駅やトンロー駅などで抜かれる日本人が多い。

 以前、アソーク駅からプロンポン駅の間で抜かれた日本人がいた。被害者は「擦り寄ってきた外国人がいた」と話していたが、容疑者は日本人だった。前回も話したことだが、日本人は同胞に対してより信頼感をもってしまう。

 被害届を受けて警察が調べたところ、クレジットカードがすぐに使われたことが分かった。サイアム駅前サイアムパラゴン内の日本人がよく利用する店舗だった。防犯カメラに写っていた容疑者は身なりが整っており、一般人がスリだとは疑いもしない容姿。日本でもスリはスーツ姿で高級時計を腕にはめるなど、見た目はいたってスマートだ。

 スリはクレジットカードで高いものを決して買わない。高額の買い物だとカード会社に怪しまれるので、高くないブランド品をいくつも買いあさるのが常だ。カードを使用した際のサインもきれいな字だった。

 道を聞かれ、例え知らなくとも「知らない」「分からない」と答えられない。「金目のものを人目にさらさない」という常識にも欠ける。日本人はどこにいても被害に遭いやすい民族だ。

戸島国雄
日本の元警視庁刑事部鑑識捜査官、元似顔絵捜査官、タイではタイ警察から警察大佐の階級を与えられる。これまでに4冊、日タイの事件・捜査に関する本を執筆、テレビ出演も多数。現在、日本に帰国中。

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