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〈タイ業界事情〉会計システムに対するAI活用について-2 BANGKOK TOKI SYSTEM CO., LTD.
- 2022/4/18
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難波 孝次 氏 Managing Director
会計システムに対するAI活用について-2
前回に引き続き、今回も会計システムのAI化について話をさせていただければと考えております。前回の話では過去の仕訳データを解析することにより、毎月入力される会計伝票の内容をあらかじめ予測して、あとは金額を入れ込むだけというところまで持っていくという形でのAI化でしたが、今回はそれを更に発展させて、タイ国における会計管理の問題点の解決を図れるのかというお話となります。
タイにおける会計管理の問題点と言いますと、前回のお話の中で出てきました月の締めが遅いという点と、もう一つ重要な問題として社内の会計処理がブラックボックス化しているという点をよく耳にします。具体的には、タイの会計法では会社の経理処理をおこなうには社内にCPD(会計記録責任者)ライセンスを保有しているスタッフを雇用するか、経理処理自体を外注委託するかのどちらかを選択することが義務付けられておりますが、自社内でのスピーディーな会計処理を目指すために、日系企業さんではCPDライセンスの保有者を雇用されるケースも多いようです。それで、その場合ですと通常の月次処理については全て社内でおこなえますし、何か特別な取引や新しい形のビジネスが始まった場合の会計上での処理についても社内で対応が可能ですので、かなりメリットは大きいと言えるでしょう。
では、その場合のデメリットとしてはどういったものがあるでしょうか。一つには会計処理の全てがCPDライセンスを保有しております経理担当者に掛かってきますので負担が大きくなるという問題が考えられますが、この問題は他に経理スタッフ(CPDライセンス保持者で無くとも、ライセンス保持者の指示のもとに作業をおこなう形であれば問題ございません)を雇用して、データの入力やチェック作業を分散することで、解決を図ることは可能でございます。また、前回お話をさせていただきましたような形で、AI機能を活用することで入力作業を省力化することも出来ますので、この点についてはそれほど大きなデメリットにはならないかと思います。
あと考えられるデメリットとしては、社内の会計処理の全てが一人の担当者に委ねられることから、その人が辞めてしまったらどうするのかという問題があります。もちろん突然来なくなるケースはそれほど無いでしょうが(全く無いとも言えませんが)、それでも新しい担当者をすぐに雇用してある程度の引継ぎの為の期間を設けることが出来るのであれば良いのですが、そう簡単に行かないことも多いかと思います。また、引継ぎの処理が行えたとしても、表面的な部分のみの引継ぎに終わって、突発的に発生するイレギュラーな事態には、都度時間をかけて調査しないと簡単には対応出来ないということもよくあります。
それから同じような内容に起因する問題として、日本本社さんから会計処理に関する問い合わせ、例えば連結決算に関する内容や、具体的にはここの取引は何故この勘定科目を使用して処理を行うのかといった様な質問事項に上手く回答出来ないといった問題もあります。これは言葉の問題もあるのですが、それよりも会計担当者自身の理解度や説明能力に起因する場合もございまして、回答として「タイではこれが一般的であるから」とか「昔からこのやり方で行ってるから」といった、あまり的を射ているとは思えないような内容が返ってくるということはよく耳にいたします。
そこで、そういった問題の解決方法としてAI的手法を用いるとどうなりますでしょうか。前回のお話の中で、生産計画の立案や来年度の予算算出といった予測制御が必要な機能であればAIを活用するケースを想定することは容易ですが、実績データの積み上げとなる会計システムとAIとはマッチしないのではないかという説明をさせていただきました。ところが最近よくAI関連のニュースで取り上げられる話として、将来的にAIに奪われる職種としてこの経理事務員がかなり上位にあげられることが多く、実はその強固なルールで固められた会計システムこそAI機能を生かせるのではというお話をこれからさせていただきます。
ここ数年の間はAIの第3次ブームということで、毎日のようにAIに関するニュース、例えば車の自動運転や介護ロボットの実現性といった技術的な内容から、将来的にはAIを搭載したロボットに仕事が奪われてしまうのではないかといった悲観論まで様々な情報が流れておりますが、第3次ブームということは、その前に1次と2次があった訳で、このAIというものについては実に50年以上前から研究されてきた技術でございます。ただ50年以上前のコンピューターシステムといいますと、データの入出力も紙テープやパンチカードの時代ですので、その環境において人間の脳と同じような能力をコンピューターに持たせると言われても、SF小説の世界くらいにしか思われなかったでしょうが、コンピューターの特にハードウェアにおける進歩が著しく躍進したことに伴いまして、1980年前後になりますとそれが夢物語ではなくなってきます。
とは言いましても、当時はまだオセロゲームにおいてコンピューターが人間に勝てるようになったとか、それくらいではありますが、それでこのオセロを始めとするコンピューターと人間とのボードゲーム対戦の歴史はそのままAIの進歩の歴史でありまして、80年前後はオセロのような比較的ルールのシンプルなゲームでしか人間に勝てなかったものが、やがて年月を経るうちチェスや将棋、昨今では囲碁のような複雑な思考ロジックを要するゲームですら、世界のトップ棋士を負かすようなコンピューターまで出てきました。要は徐々に複雑な思考がおこなえるようになったということで、囲碁や将棋といった決められたルールの中では、人間よりコンピューターの思考の方が優れているといったことになります。
ただ、それは決められたルールの中だけの話でありまして、ではコンピューターによる自動運転とかも簡単におこなえるだろうという話には当然ながらなりません。何故なら将棋の駒である歩は前に1マスしか進めないという明確なルールが決められた世界だからこそコンピューターの予測機能が生きるのですが、現実の世界ですと、前走車が突然急ブレーキを踏むこともあれば、路地から子どもが飛び出してくることもあるでしょうし、いつもなら対向車とすれ違える道路でも今日に限り工事の為に片側が通行止めになっていたりと、神羅万象様々な突発事項が発生する可能性があり、それら全てを予測できるようなAIは流石にまだ登場しておりません。
それで何を言いたいのかといいますと、AIには向き不向きがあるということで、将来的には前述の問題を全てクリアしたAIが登場して自動運転も夢ではなくなるとしても、現時点ではまだ将棋や囲碁といった明確なルールが決められた状態ではないと、安心して活用することは難しいということになりますでしょうか。裏を返せば、そういうルールが確立している世界であればAIを活用できる訳で、ここでようやく会計システムのお話に戻って来ますが、会計処理といいますのはある意味壮大な数字合わせパズルであります。要は仕訳伝票において借方と貸方の合計は常に一致させる必要がありますし、その結果貸借対照表と損益計算書における利益は必ず一致する形となります。それでそういった明確にルール付けされた会計システムだからこそ、AI機能が威力を発揮できるということになります。
もう少々具体的に説明させていただきますと前回の話と被ってくるのですが、会計システムの仕訳にはいくつかのパターンが決められる形となりまして、例えばAという得意先にBという商品を販売した場合の仕訳伝票ですと、借方が売掛金で貸方が商品売上と付加価値税という形となりまして、ただ売掛金でも国内と海外とで勘定科目を分けているケースもありますでしょうし、得意先毎で勘定科目を分けているケースもあるかと思います。また商品売上についても同様に商品のカテゴリーごとに勘定科目や損益部門を分けて設定されているケースもありまして、この為通常この仕訳パターンといいますか得意先や商品といった各種マスターに関連する勘定科目や損益部門とを登録できるようになっており、前述のように得意先Aに商品Bを販売した場合の仕訳は自動的にマスター登録内容により決定されるといった仕組みを採っているシステムは多いかと思います。
この場合、きっちりマスター化してしまっていれば、後は販売管理システムからインボイスを発行すれば自動的に仕訳伝票まで作成されるといったルーチンが出来上がる訳ですが、ただ何事にも例外はございまして、通常はこの勘定科目を使用するが今回に限り別の勘定科目を使用しないといけないといったケースも出てまいります。また、得意先や商品についても今後増えていくでしょうし、その都度マスターに勘定科目と損益部門とを登録する必要がございまして、その設定作業については社内の会計管理を熟知された人でないとおこなえないということになってしまいます。そこで最初に問題提起させていただきました担当者が突然辞めてしまったケースや、また社内のビジネスが拡張して取り扱い商品が大量に増加したケースなどが発生しますと、このマスター設定作業そのものにかなりの時間をとられてしまうという形となってしまいます。
そこでこのマスター設定自体をAIにやらせるというのはどうでしょうか。具体的には今までの業務管理データと仕訳データがデータベース内に格納されている訳ですから、その関連付けを一つずつ調べていき、販売伝票に対する借方の勘定科目が何種類かに分かれていた場合、該当する得意先のマスター値を調査して、例えば国内の得意先に対しては常に同じ勘定科目を使用されていれば、今後新しく追加される得意先が国内か否かで科目を決定するといった形となります。実際にはもっと複雑なケースでこの得意先とこの商品の組み合わせの場合はこうなるとか、また別の要素が絡んできて科目が決定されることもあるかとは思いますが、そういった組み合わせパターンの優先付けというのはAIが最も得意とする分野となっておりまして、各種マスター内の項目毎の登録値にそれぞれ重みをつけて、それらの合算値を比較することにより、今まで登録されていた内容よりも更に実情に近いマスター設定をおこなうことも可能になります。
また、このように過去の実績データを元にして、各種マスターに損益部門と勘定科目とを関連付けることにより、ブラックボックス化していた社内会計処理の中身を可視化することが可能となります。今までは経理担当者の頭の中にしか存在していなかった仕訳パターンが、AIを通すことにより例えば得意先マスターの輸出区分が登録されていれば通常は輸出売掛金の科目となるがグループ区分が登録されていればグループ会社売掛金になるといった優先付けや、得意先マスターの輸出区分が未登録で商品マスターのカテゴリーが医薬品であれば国内医薬品販売の部門になるというような各種マスターの組み合わせで決定される内容等、その損益部門と勘定科目がどのような要因により決定付けられたかということが一目で分かるようになります。この為、経理にそれほど詳しくない人でも、AIが分析をおこなったこの表を照会することにより、社内の会計仕訳が現在どのようにおこなわれているかが理解出来るようになるというメリットもございます。
ということで今回はAI機能を使用して会計システムの仕訳パターンを分析するというお話をさせていただきましたが、次回は更にこの機能を発展させAIによる社内業務の分析は可能なのか?といったお話をさせていただければと考えております。
BANGKOK TOKI SYSTEM CO., LTD.
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