【再録】戸島大佐の「在留邦人の危機管理」FILE No. 1:一歩下がって付き合う同胞 ①

――  在タイ年数が長いほど信用できない同胞が増えてくる ――

 在留邦人数7万337人、世界第4位の人数を誇るタイ(日本外務省「海外在留邦人数調査統計」2016年10月1日時点)。数多くの同胞がタイに暮らしているが、悲しいことにその同胞同士で常に問題が発生している。

 来タイ間もない、慣れない土地で暮らす日本人にとって、在タイ何十年という同胞は頼もしい存在であろう。知り合って懇意の仲になると、ついつい頼ってしまうことになる。しかし、頼る方は純粋な気持ちでも、頼られる方は決してそうでない場合がある。「金だけは持っている無知」と見下し、うまく巻き上げてやろうと画策する輩が常に存在し、在タイ年数が長ければ長いほどそのような者が目立つ。

 タイの日本人社会にはさまざまな会が存在する。集団を好む民族なのだろうか、異国の地に暮らすのが心細いのだろうか、誰もがすぐ会やクラブといったものを立ち上げて同胞を募る。自分で立ち上げた会で自分に格好いい肩書きを作り、名詞を刷って配る。日本人は肩書きに弱いから、名詞を受け取った方もその格好いい肩書きをすぐに信用してしまう。するとまたそこで問題が起きる。タイ語が分からないので、タイに長くてタイ語も堪能と自称する相手の話に、まんまと乗せられてしまう。

 もちろん、在タイ年数の長い日本人が全て要注意人物ではなく、圧倒的多数は誠実に暮らす同胞だ。しかし、容姿で相手の良し悪しを判断するのは難しい。誰に対しても常に、一歩下がった付き合いが必要だ。

 「出資しませんか」「投資しましょう」「店を出しましょう」と言い寄ってくる同胞をすぐに信用してはいけない。長い付き合いのある同胞でさえ、自分の仲間を食いものにしようと儲け話を持ち出してくる。面識もない、会って間もない相手からの儲け話には必ず、裏に何かがある。

 そういう相手はたいていタイ暮らしが長いので、法的に追求されない方法を熟知している。方法といって難しいものではない。現金を受け取るだけで書類に名前を加えない、もしくは他人名義で書類を作成する、内容の異なるタイ語の書類に署名させる、という単純な手口だ。

 書類はタイで通用する公式な書式で全てタイ語、日本人の名前もタイ語表記となる。自分の名前をタイ語でどのように書くか知らなければ、「あなたの名前はここです」と示されても分からない。それでもなお、「タイにはまだ慣れていないけどビジネスをやってみたい」と思うのであれば、見せられた書類にいわれるままに署名をするのではなく、一度持ち帰ってタイ語が分かる人物に確認してもらうべきだ。

 被害に遭ったと気付いたら、まずは「在タイ日本大使館領事部邦人援護班」に相談する。次回で触れるが、ここで弁護士やコンサルタント会社に相談するとまたもや、悪徳同胞に引っかかる心配がある。詰めが甘い人間は何度も繰り返し詐欺に遭う。日本でもタイでも同じだ。

戸島国雄
日本の元警視庁刑事部鑑識捜査官、元似顔絵捜査官、タイではタイ警察から警察大佐の階級を与えられる。これまでに4冊、日タイの事件・捜査に関する本を執筆、テレビ出演も多数。現在、日本に帰国中。

再録:過去に掲載して人気が高かったコラムを再アップしています。

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