【タイ】14日投票の議会下院(定数500=小選挙区400、比例代表100)総選挙は、民主派の野党2党が獲得議席数の1位、2位となり、過半数を抑えて勝利した。投票率は75.2%だった。
第1党となった革新系の新党ガウクライ党(ムーブフォワード党)は第2党のタクシン元首相派プアタイ党、野党陣営の小政党4党の計6党、309議席で連立政権を樹立する方針だ。
ただ、首相指名選挙にはプラユット軍事政権(2014~2019年)が議員を選任した非民選の議会上院(定数250)も投票する。事実上の最大与党である上院と与党陣営が一枚岩で首相指名選挙に臨み、野党側の政権奪取を阻む可能性もある。
■革新野党、バンコク席巻
タイ選挙委員会が15日に発表した暫定開票結果によると、ガウクライは151議席(小選挙区112、比例代表39)、プアタイは141議席(同112、29)を獲得した。ガウクライは首都バンコクの33小選挙区のうち32で勝利したほか、プアタイの地盤の北部や王党派が強い南部でも議席を奪った。
獲得議席数3~6位は与党陣営の4党で、財閥、政治閥の集合体のプームジャイタイ党が71議席(小選挙区68、比例代表3)、プラウィット副首相(元陸軍司令官)率いる親軍政党パランプラチャーラット党が40議席(同39、1)、プラユット首相兼国防相(元陸軍司令官)率いる王党派新党ルワムタイサーンチャート党が36議席(同23、13)、民主党が25議席(同22、3)だった。小選挙区で強いプームジャイタイ以外はいずれも2019年の前回下院選から議席を減らした。
■鍵握る非民選の議会上院
ガウクライのピター党首は15日、選挙委の開票結果発表を受け、野党陣営の6党、309議席による連立政権を発足させる意向を表明した。首相指名選挙で上院の影響を排除するには、下院で376議席以上必要で、与党陣営からイデオロギー色が薄いプームジャイタイを引き入れる可能性が取り沙汰されたが、当面は見送るもようだ。ピター党首は「(選挙で示された)民意が(上院に)尊重されると期待する」と述べた。
ガウクライは国王批判を禁じた不敬罪の改正、徴兵制の廃止、軍の縮小、県知事公選制の導入などを掲げ、王党派、親軍派の上院と真っ向から対立する。上院議員の一部からはすでに、「王室を尊重しない人物を首相には推さない」といった声が上がっている。
■首相候補、憲法違反で公職追放も
ピター党首をめぐっては、メディア会社の株式を所有していて現行憲法に違反しているとして、王党派の活動家が公職追放を求めている。憲法裁判所が違反を認定すれば、政治生命が絶たれる。
憲法裁は2006年から続く民主派と王党派の政治闘争の中で、ほぼ一貫して王党派に有利な判決を下してきた。ガウクライの前身である新未来党が2019年の下院選で躍進した際には、翌2020年、党首のタナートン氏がメディア会社の株式を所有していたとして、同氏の下院議員資格をはく奪。さらに、新未来党がタナートン氏から選挙資金を借り入れたことを政党法違反だとして、新未来党に解党命令を下し、タナートン氏ら党幹部16人の参政権を10年間停止した。