【タイ】タイ憲法裁判所は8月29日、タイ・カンボジア国境紛争を巡るペートーンターン・チナワット首相の「発言」が、憲法が定める倫理規定に違反したとし、同首相を解任した。これにより内閣が総入れ替えとなる。タイの各メディアは、憲法裁の判決を深く批評することなく、次期首相の予想で盛り上がっている。
ペートーンターン首相は6月15日に非公式でカンボジアのフン・セン元首相と電話会談し、自軍の司令官を「向こう側の人間」と表現。フン・セン元首相が録音した音声クリップが18日にカンボジアで公開され、いわゆる「裏切り発言」としてタイ国民に広く知られてしまった。これを上院議員36人が倫理規定違反として憲法裁に訴え、同首相は7月1日に判決までの首相職の一時停止を命じられた。解任により失職は、7月1日まで遡る。
憲法裁は、憲法第106条第4・5号および第170条第1項第4号に基づき、「閣僚は誠実かつ信頼に足る人物で、あらゆる面での厳しい精査に耐えうる存在でなければならない」と指摘。ペートーンターン首相の発言は、「国内の分裂を露呈させ、カンボジアによる内政干渉を招く恐れがある」と判断した。
今回の発言が問題視されて以降、ペートーンターン首相の支持率は急落し、同首相を擁護する声はほとんど聞かれなかった。父親のタクシン元首相はメディアに対し、「娘は首相職を継続できる」と断言。その理由を事細かに述べていたが、こうしたアピールは結果的に裏目に出た。
メディアも首相失職の速報直後に、まるで予定稿が用意されていたかのような速さで、次期首相候補を写真付きで紹介した。憲法裁の判決内容や法的根拠に対する深い批評は、ほとんど見られなかった。
首相候補として名前が挙がっている中で、第一与党のプアタイ党が候補として選出できるのは、チャイカセーム・ニティシリ元検事総長のみ。前回の首相選出の際に名前が挙がり、一度は選出が決まったものの、高齢のため不安があるとして、ペートーンターン首相に交代した経緯がある。現在77歳。
今回の発言問題を受けていち早く連立政権から離脱したプームジャイタイ党のアヌティン・チャーンウィーラクーン党首(前副首相兼内相)も名前が挙がっている。すでに各方面への支持集めに動いており、政権離脱もペートーンターン首相の失職を見越した戦略的判断だったとみる向きが多い。
2014年のクーデターで軍政トップとなったプラユット・ジャンオーチャー元首相(元陸軍司令官)の名前も挙がっている。民政移管後も軍政のイメージが強く、海外のメディアから「非民主主義的」と非難されることが多いが、当のタイでは「国防では最も信頼できる」「政治闘争を抑えられる」といった評価も根強い。プラユット元首相は2023年に政界引退を表明しており、現在は枢密院顧問を務めている。