【タイ】タイ反汚職機構(ACT)は12月25日、年次報告書の「2025年10大汚職事件」を公表した。政治家、特権層、国家機関が結びつく組織的な「ネットワーク型汚職」による腐敗が、社会全体を覆った年だったと総括した。
同報告書は、公共事業、宗教界、医療、司法、社会保障制度など幅広い分野で発覚した汚職事件を列挙し、制度的腐敗が国民生活に深刻な影響を与えていると警鐘を鳴らしている。ACTによると、2025年に象徴的だった汚職事件は以下のとおり。
1)建築中だった「タイ会計検査院(SAO)」新本部ビルの倒壊事故。3月の地震によってタイ国内の建物で唯一倒壊し、89人が死亡した。被害総額は20億バーツ(100億円相当)。ACTは、事故の規模にもかかわらず、タイ政府や国家汚職防止委員会(NACC)によって調査報告書が封じられていると指摘。責任者はいまだ処罰されておらず、建設安全基準や行政の透明性評価制度の信頼性にも疑問が生じているという。SAOはそもそも、政府機関の監査、公共プロジェクト監視、汚職防止、政策評価といった、政府の中でも絶対的な権限を持つ監視機関。
2)宗教界に対する信頼を揺るがした、高位僧侶による「寺院資金横領事件」。在家信者の女性を含む13人が関与し、3年間で3億8500万バーツが不正に流出したとされる。中央捜査局(CIB)は著名僧侶を含む多数の不正を引き続き捜査中。
3)「グレー資本」と呼ばれる国内外の詐欺組織と不透明な資金ネットワーク。これまでの摘発で100億バーツを超える資産が押収された。ACTは、こうした資金がタイの政治家や腐敗した警察と深く結びつき、年間で1153億バーツの経済損失をもたらしていると指摘。
4)退役軍人総合病院で発覚した「医薬品詐取事件」。医師ら20人以上が関与し、7年間で6000万~8000万バーツの損失を生んだ。睡眠薬の不正販売や偽インフルエンザワクチン投与といった別事件も含め、公的医療制度の財政を圧迫している。
5)「タクシン・チナワット元首相」を巡る収監問題。矯正当局や警察病院による法の歪曲によって、収監されるべき刑務所ではなく、警察病院のVIPルームでの「仮想拘禁」が行われた。最後は実刑収監に至ったが、えこひいきが国際的な司法評価を損なう実態を浮き彫りにした。
6)トーサック・スックウィモン元警察長官と200人以上の警察官が、「オンライン賭博業者からの収賄」で懲戒処分を受けた事件。警察組織への信頼が大きく揺らいだ。
7)ピチェート・チュアムアンパーン前下院副議長が、自身の選挙区に4億4300万バーツの「研修・セミナー関連事業予算」を集中配分し、憲法裁判所から解任された問題。ACTの報告書は、同様の行為が横行しているにもかかわらず、処罰される例はまれだと指摘。
8)「社会保険事務所」を巡る支出問題。5000万バーツのカレンダー制作費や、相場の倍に当たる70億バーツでの庁舎購入が批判を浴びた。
9)同じく社会保険事務所による8億5000万バーツ規模の事業申請を巡る不透明な手続き。基金運用の妥当性が問われた。
10)社会保険基金が保有する国営エネルギー企業の株式を民間企業に売却しようとした動き。基金の安全性を脅かすとして強い反発を招いた。
ACTは、汚職が分野横断的なネットワークへと高度に進化していると警告。今後の選挙では有権者が投票を通じて不正な候補者を退ける必要があると訴えた。政治家や特権層が国民の期待や倫理を無視し、上院や独立機関の一部の存在が汚職対策や人権擁護の妨げになっている現状に、強い危機感を示している。


















