【タイ】タイ投資委員会(BOI)のナリット・タートサティーラサック事務局長は、6月から続くタイ・カンボジア国境の閉鎖を巡り、カンボジアで操業する日系企業の一部が生産拠点をタイに移す可能性があるとの見方を示した。タイの安定した事業環境と物流網の優位性をアピールしている。
国境が閉鎖された後にカンボジアからタイに拠点を移した企業は、未だ少数にとどまる。カンボジアでは低賃金労働力に依存した大規模・労働集約型の事業が依然として大きな比重を占め、移転は容易でないためだ。ただ、カンボジアでは輸送コストが従来の5〜10倍に膨らみ、納期も半日から最長7日へと延びており、拠点移転を検討せざるを得ない企業は少なくないとみられる。
一方で、治安上の懸念からタイが国境を再開するにはまだ時間がかかる見通しであり、ナリット事務局長は「外国人投資家は事業モデルを変えせざるを得ない」と警告している。タイからカンボジアへのシフトは、技術水準や人材の質を落とすことになり非現実的。カンボジアからタイへのシフトはより可能性があり、課題となる人材確保で「タイ政府が支援していく」と述べた。
BOIは現在、国境閉鎖で影響を受けている複数の日系企業と協議を進めているという。原材料をタイからカンボジアに送って加工して半製品を再びタイに戻すといった、両国にまたがるサプライチェーンを持つメーカーは現在、物流ルートをベトナムやラオス経由に切り替えており、コスト急増と輸送時間の長期化を強いられている。ナリット事務局長はタイのメディアに対し、ミネベアやデンソーといった具体的な社名を挙げた。カンボジアで電子部品を手がける日本企業が特に大きな打撃を受けているとし、インフラが整備されて人材が豊富なタイへの移転を検討すると見込んでいる。
BOIは実際に、8月8日に特例措置を承認。国境閉鎖の影響を受けた企業を対象に、中古機械の輸入関税を免除し、製造後10年以内の機械であれば投資額の全額を法人税免除の対象資本とすることを決めた。また、既存のBOI認可プロジェクトと統合する形で一部機械をカンボジアから移す場合、承認日から1年間の輸入を認める。企業は2026年末までに申請を行う必要がある。