タイ観光振興策、10月29日開始へ 国内旅行需要の喚起狙う

【タイ】エークニティ・ニティタンプラパート副首相兼財務相は、国内観光需要を喚起する新たな経済対策を10月29日から実施する方針を明らかにした。年間1兆1500億バーツ(5兆4000億円相当)規模の国内旅行消費を見込み、景気回復を後押しする狙い。21日の閣議で正式決定を目指す。

 エークニティ副首相は「観光振興策は『1人半分(コン・ラ・クルン)』キャンペーンと同時に10月29日から12月31日まで実施する。両制度を並行して進めることで経済全体を活性化させたい」と述べた。アヌティン首相が就任時に掲げた「Quick Big Win」戦略の一環として、短期的な成果を通じて持続可能な成長につなげる考えで、GDP押し上げ効果も期待している。

 具体策は三本柱で構成される。第1は「地方都市での会議・研修旅行」の促進。政府機関や国営企業が地方で社員向けセミナーを開催した場合、その経費を法人税の課税対象から控除する。必要経費は2025年度第3四半期予算の70億バーツを振り替えて充てる。

 第2は「タイ・トラベル・タイ」制度。10月29日から年末までに地方都市を訪れた納税者は、旅行パッケージや宿泊費の一部を所得税申告時に控除できるようにする。

 第3はホテル改修への優遇措置。省エネ改修や施設更新に投資するホテルに対し、税制上の優遇を与える。ホテル業界の底上げと持続可能な建築投資を促す狙い。

 一方、「1人半分」には総額440億バーツを計上。政府が支出の半分を負担し、個人負担分と合わせて880億バーツの経済効果を見込む。利用者への補助額は従来の2000バーツから2400バーツに拡大される。登録済みで未利用の対象者は、11月11日までに初回利用を行う必要がある。

 さらに、1340万人の福祉カード保持者に対し、1人当たり1700バーツを追加給付することも決定。総額230億バーツを充てる。これらを合わせ、年末までに1110億バーツ相当が市場に投入され、GDPを0.3~0.4ポイント押し上げる効果を見込む。

 エークニティ副首相はまた、中所得国の罠、債務問題、デジタル化対応など、経済・財政政策の抜本的改革が急務だと強調した。「タイ経済は高水準の債務比率や家計債務の増加に直面し、不安定な状況にある」と指摘。国際通貨基金(IMF)は財政規律の重要性を警告しており、格付け会社フィッチも先月、外部環境の悪化や政治的不透明感を理由にタイの格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げている。

 「今後5年間で十分な成果を上げられなければ停滞が長引き、将来の繁栄の機会を失う恐れがある。長期的な停滞は国民の不満や社会不安を招きかねない」と、エークニティ副首相は警鐘を鳴らしている。電気自動車(EV)や先端製造業といった新産業の育成にも力を入れ、経済再生を図る方針だ。

エークニティ副首相 写真:タイ財務省

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