【タイ】14日投開票の議会下院(定数500)総選挙で152議席を獲得して第1党となった革新系のガウクライ党(ムーブフォワード党)、141議席で第2党となったタクシン元首相派プアタイ党など民主派8党は22日、連立政権樹立に向けた覚書に調印した。
覚書の前文では、国王を元首とする民主政体の維持と王室の尊重をうたい、民主派と対立する王党派への配慮を示した。主要な政策には、▼プラユット軍事政権(2014~2019年)が作成施行した民主主義を制限する内容の現行憲法に代わり、選挙で選ばれた憲法起草議会による民主的な新憲法の制定▼民主主義に即した官僚機構、警察、軍、裁判所の改革▼平時における徴兵制の廃止▼酒造などの産業自由化▼同性婚の合法化▼現政権が事実上自由化した大麻を麻薬に再指定し、大麻の利用を制限――などを挙げた。
ガウクライが選挙戦で掲げた、国王批判に重罰を科す不敬罪の改正廃止は盛り込まなかった。不敬罪の改正には王党派が強く反発し、プアタイなど民主派陣営からも見送りを求める声が出ていた。
今回の覚書調印で、ガウクライは政権樹立に向け一歩前進したかたちだ。ただ、8党の議席数は暫定で313で、上下両院による首相指名選挙で過半数となる376議席に届いていない。議会上院(定数250)から支持を取り付けるしかない状況だが、上院はプラユット軍政が選任した非民選の王党派・保守派議員で占められていて、王室や軍に批判的なガウクライを支持するかどうかは不透明だ。
こうした状況から、ガウクライが多数派工作に失敗し、プアタイが与党陣営のプームジャイタイ党、パランプラチャーラット党などと組み政権を発足させるという憶測も出ている。プームジャイタイとパランプラチャーラットには元々プアタイに所属していた政治家が多く、3党は手を組みやすいとされる。プアタイ連立政権が実現すれば、王党派と軍はガウクライによる急進的な政策転換を阻止でき、プアタイは事実上の国外亡命生活を送るタクシン元首相(73)の帰国を王党派の協力を得て実現させることを目指すとみられる。タクシン元首相は国外滞在中の2008年に、首相在任中に当時の妻が国有地を競売で購入したことで実刑判決を受け、以来、タイに帰国していない。今月1日に次女が2人目の子どもを出産した際には、「7人目の孫は男の子。とてもうれしい」、「孫の面倒をみるために帰国させてほしい」などとツイッターに投稿していた。